

■フランス人の「甘党」ぶりは筋金入りだ。
■店内には所狭しとケーキや焼き菓子、チョコレートなどが並べられ、甘い香りが漂う。クリスマスやバカンス時期になると身動きが出来ない程、お客が訪れるという。
■バスクの伝統的お菓子はガトーバスクである。
■フランスチョコレート発祥の地
フランス人は牛、豚、鶏、羊は勿論、鴨、鳩、鹿、野ウサギなど色々な肉を食べる。
牛肉は日本人が好むサシ(脂肪)入りより、堅い食感で味のしっかりした肉を好む。堅い肉は我々には安物のイメージがあるが、慣れると美味しい。牛肉は食べ飽きているのか彼らには高級品ではない。むしろ、こだわり豚や地鶏、鹿、鳩、野ウサギなど野生動物が珍重される。
バスクは山間に草地や落葉樹林が多く家畜が飼育され、食用に使われる野生動物も住んでいる。その中でとりわけ美食家に珍重されているのがバスク豚である。
豚が現在の様に肥育される前は、世界中に野豚(原種)が住んでいた。養豚が盛んになると、肥育効率を重視した交配が繰り返され、ローカルで飼われていた非効率な野豚の類は姿を消した。
20数年前、マレーシアを旅した時、一番美味しかったのは田舎の食堂で食べた野豚であった。歯応えがあり噛めば噛む程味が出て、感動したものだ。スペイン西部(グラナダ)山奥で食べたイベリコ豚の美味も印象深い。イベリコ豚は豚コレラが終息し、日本でも輸入が解禁され、レストランや通販で食べられる様になった。しかし、バスク豚は極希少品でまだ気軽には食べられない。1kg一万数千円もするから敷居が相当高い・・・
「バスク豚」はバスク山中標高800メートル位の高地でこだわりを持って飼われている。離乳後、12~14ヶ月になるまで放牧され、栗やどんぐり、ブナの実、牧草などを食べて育つ。品種は黒豚系で同じような環境で育てられるイベリコ豚と似ている。
特徴的なのは柔らかい肉質と脂肪部分の美味しい事で、まさに絶品である。そのまま調理しても美味しいが、極めつけは1~1.5年くらい熟成させた生ハム。世界の美食家をうならせるが日本で食べると値段の高さにうなる・・・
肉屋さんでは色々な種類が揃っていて、日本の様にパック売りは少ない。部位を指定すればその都度、切り売りしてくれる。生ハムやソーセージ、サラミなどは店のオリジナルが多く、それぞれの好みで顧客が付いている。殆どが工業製品化され、大手企業の寡占化が進んでいる日本とは大きく異なる。オーブンで焼いたり油で揚げて食べる中間総菜も豊富。味重視だから、日本の様に電子レンジで温めて食べる総菜は限られる。数種類買ってオーブンで焼いて試食したが、レストラン顔負けの味であった。日本と異なり味にうるさい調理人が健在である。
■バスク北方は大西洋に面し、豊かな漁場が広がる。魚介類が豊富でアンチョビや鱈料理が有名である。近くにある漁港には直売場があり、水揚げされたピカピカの魚が売られている。市場では丸ごと一匹売り限定で解体して売ってはいけない規則があるそうで、漁民と流通双方の共存共栄が図られている。如何にもワークシェアリングのヨーロッパ的取り決めである。早速、朝揚がった魚を買い、マルシェにも足をのばして牡蠣を買いに行った。
■大雪が降ったため水揚げされた魚は少なく、2種類だけ・・・
■調理はバスク料理に手慣れたYさんにお任せ・・・
■調理場にはバスクの食を演出する独特な調理器具が掛けてある。魚ボイル専用の長方形鍋に、内臓を取り除いた魚とハーブを入れ、コトコト煮込んで魚の臭みを抜くのがバスク流・・・
■伝統模様のバスク織りテーブルクロスを用意して雰囲気を盛り上げる。
■フランス人は大の生牡蠣好き。マルシェには十種類近くもの牡蠣がコンテナに入れられ売られている。日本の様に殻を外した身だけの牡蠣は無い。生食が基本だから生きたまま殻を外し、レモンを搾って食べる。
■殻の分厚い岩牡蠣を買ったが、旅の途中で生食は自信がなく、暖炉の炭火で軽く火を通して食べた。甘みがあって久しぶりに内容の濃い牡蠣を食べた。流石、バスクの牡蠣だ!
バスクは殆どが山地で果樹類が豊富。店には加工品を含めてリンゴ、栗、クルミ、ナッツ、プラム、イチジク、ブルーベリー、キューイ、西洋梨、葡萄、チェリー、メロン、柑橘類・・・などが並んでいる。メロンや柑橘はスペイン地中海側から運ばれてくる様だが、フルーツ好き国民のためか種類が多い。お菓子作りにも盛んに使われる。
ドライフルーツ、シロップ漬け、ジャムなどの加工品も多く、殆どが手作り。試しに特産だという?ジャムを買ってみた。味はすごく良かったが、小梅の種子大の種が1瓶に3個混じっていた。完璧を要求する日本の消費者ならば、クレームが付く所だがここでは一番大切なのは美味しいこと・・・この種のことはよくあることで意に介さない。。
■木箱や段ボール箱に並べて売られており、出店者は多い。
■リンゴは種類が多く、日本とくらべて小玉傾向。雨が少ないため果肉の締まりが良く、酸味が強く味が濃厚なものが多い。色も日本の品種の様に真っ赤なモノは見かけない。西洋絵画に描かれている薄赤と少し緑がかった特有の色彩のモノが多い。黄色や青リンゴもある。
■柑橘はスペイン地中海側に世界的有名産地、バレンシアが控えている。種類が豊富で葉付き温州みかんに似た柑橘もあり、日本人が日常食べている柑橘と大差ない。地中海性気候で日照が多く、降雨量が少ないので味は濃厚。
■メロン・スイカ
■キューイフルーツはデザートとしてよく食べられている。果肉が黄色いゴールデン品種を程よく熟成させて出荷するため、糖度が高く、食感もいい。
■クルミはパンやケーキ、料理にもよく使う。日本人は農産物の美味しさ基準として「甘み」で表現することが多い。本来は「旨み」であるが「甘み」の方が単純で解りやすい。
果物は当然として、米、麦、蕎麦などの穀物、野菜、魚介類なども「甘みがあって美味しい・・・」と表現する。然らば日本人は甘党?と問われれば「ノー」である。世界中を旅した訳ではないが、少なくともアメリカやヨーロッパ人は「甘党」だ。統計を調べてみても、1人当たりの年間砂糖消費量(2008年)は世界平均24.5kg。日本19.0kg、アメリカ31.2kg、EU39.7kgで欧米人の甘党ぶりが際立つ。最高はブラジルの63.4kgだがエタノール原料としての消費が含まれているから全部口に入る訳ではない。ブラジルは生産量世界一(シェア23%)を誇る砂糖大国だ。
元々日本の食文化を見ても欧米の様に超甘のモノは少ない。近頃「スイーツ」ブームが起こり、デパ地下では関連商品の売り場が拡大、ネット通販もスイーツが好調と言うから甘党は健在である。反面、糖質の取り過ぎでダイエットに励む人も増え、無糖や微糖をコンセプトにした商品も売れている。ついつい「甘み」の誘惑に負けるのは、甘み=糖は人間が活動する上で最も速効的なエネルギー源だから、本能的にコントロールが難しい。糖はグリコーゲンとして一時に肝臓に蓄えられ、更に過剰なモノは脂肪となり体内に蓄えられる。人間は原始時代から飢えとの戦いだったと言われているから、目の前にエネルギー源があれば取り敢えず体内に蓄えておく習性を持ったのだろう。
美味しさはいろいろ複雑な要素で成り立っており、個人差も大きい。NPO「野菜と文化のフォーラム」では「美味しさ基準」を数値化するため各分野の専門家を集めて多角的に解明を試みたが、明快な結論は出せなかった。
一般論として農産物が美味しく感じるのは「新芽」か「充実した部分」だ。新芽は成長点に多種多様な炭水化物(アミノ酸、糖)が生成され、甘みや独特の香り、風味を作る。新茶やアスパラガス、タラの芽などの山菜が代表的な例である。穀物や果菜類などは充実過程で甘み、酸味、渋み、苦み、えぐみなどが作られ複雑に変化し、成熟期になると生命を繫ぐため貯蔵効率の良いデンプンや糖に変化して種子や周りの果肉に蓄える。アミノ酸、有機酸、その他雑味と感じる成分が充実と共に消化され、相対的に糖=甘みが増して美味しくなる。
従って良食味農産物を作るには、充実期に樹体から種子粒(果実)に炭水化物が集結する生殖成長に切り替わることが重要である。
メロンやスイカなどの一果収穫、穀物、果樹などの一斉収穫作物は果実の肥大、充実期に一気に生殖成長に引き込む事で、成果が期待できる。トマトやイチゴなど長期にわたって多段収穫する作物は栄養成長と生殖成長のバランスを保ちながら生育させないと収量が上がらないので対応が異なる。
順次、各作物の対応策について述べる。
海外に旅すると必ず立ち寄るのが市場(マルシェ)である。ヨーロッパの都市には、常設か毎週曜日が決められて開かれる市場がある。滞在したサン・ジャンにもスペイン側サン・セバスチャンにもマルシェがあり、早速、買い出しに出掛けた。
卸売り市場ではなく、一般市民が自由に買い物が出来る日本の朝市と同じで、新鮮で安価なので人気がある。街の中心地に19世紀に建てられた風格ある建物の中に常設売り場があり、広場周辺にはテント張りの店が並んでいる。常設市場には生ハムやソーセージなど肉製品、チーズなど乳製品、スパイスなど調味料、ワインなど飲料、オリーブ、ジャム、ドライフルーツ、蜂蜜・・・バスクの美食を支える食材が並んでいる。周辺から集まってくる農民や漁民達が思い思いに商品を並べて売っている。
冬期のため地場で収穫できる野菜は限られ、温暖な地中海側から運ばれてきた野菜やフルーツもある。パリやニースの朝市に並んでいるモノと比べれば商品数は少なく、見栄えは劣る。しかし、夏のリゾートシーズン(6~9月)になると街は旅行客で溢れ、身動きできないくらい賑わうと言うから、その頃には商品数も揃い、旬の食材が勢揃いする。
(ピマン)
「バスクの食」を語るには、先ず、フランス産唯一の香辛料「ピマン・デスペレット」の事を書かねばならない。バスクの山中にエスペレットという小さな村があり、ここで収穫された赤唐辛子を「ピマン・デスペレット」と呼ぶ。2000年に原産地呼称統制法(AOC)に認定され、ここにしかない唯一無二の特産品となった。1650年コロンブスと共にアメリカ大陸から戻ったバスク人によって伝えられ、バスクの気候風土の中で何百年にもわたって改良、馴化したオリジナル農産物だ。所謂、赤唐辛子だが、日本の鷹の爪などと比べて強い辛みが無く、程よい甘みと香りがあり、料理は勿論、ケーキなどデザートにも使われる。収穫されたピマンは1個ずつ丁寧に成り軸に糸を通し、窓辺、壁など家の周りに吊して乾燥させる。その様はエスペレット村の秋の風物詩となっている。乾燥したピマンは粗めの粉状に粉砕またはペースト状に加工し、瓶詰めにして売られている。今やパリの星付きレストラン調理人注目の食材となり、バスク料理には欠かせないスパイスとなっている。
日本で言うピーマン、パプリカ、獅子唐の類は多く、好んで食べられている。